たんメモその１ １、たんの誕生 平成９年６月１日に日付が変わった頃、陣痛が来て入院、朝９時４８分にたんが誕生しました。  予定日より１５日も早いわりには、３５７０ｇという立派な大きさでした。  ふたりめということもあり、出産の流れも把握していてこちらも余裕で  分娩台の上で  「もう胎盤は出たのですか・・・？」等、助産婦さんと会話したのを覚えています。  たんがお腹にできる前には流産も経験しており、おまけに妊娠７ヶ月で  私の子宮頸癌がみつかり思いもよらぬ手術入院・・といういきさつがあったので、たんの誕生はとにかく格別にうれしかったです・・・。  当時３歳のカズも私の実家でひとりでいたので、電話でたんが誕生したことを告げると  「赤ちゃんうまれたの？ボクお兄ちゃんだね・・・」という声をきいただけで、ウルっときてしまいました。  でもそんな家族の喜びも一蹴するような事態になろうとは、この時だれも思いませんでした・・・。 ２、心臓病 たんが生まれて２日目に看護士さんによばれました。  行ってみると小児科の先生がいらして言いました。  「赤ちゃんに心雑音があります・・・。」  一瞬、えっ？て思いましたが、実はカズも生後１ヶ月で心雑音があり、検査したが異常ナシという経験をしていたので、深くは考えませんでした、というより考えないようにしていました。  半月後、紹介された子供専門の病院に検査に行きました。  （正直この病院に来たときは、世の中こんな風に病気と闘っている子供たちがいるんだ〜と見慣れぬ光景に少しショックでした・・・）  新生児科の先生に診ていただき、陥没呼吸なども指摘されましたが、詳しい検査の心エコーをとることに・・・・。  検査を終え先生がこちらを向かれて、まず最初に言った言葉は  こうでした・・・。  「きょうは、お母さんおひとりですか・・・？」  この言葉には、もし他に家族がいるなら一緒に聞いてもらいたい重要な事実をこれから告げるので、、という前ぶれにしか聞こえませんでした。  私は「はい」と短く答え、結果を聞く体勢をとりました。  先生は‘心臓のしくみ’の絵を取り出し、  「そもそも正常な心臓というのは、・・・・・」から始まり、言葉の最後に  「・・・・・なので、手術は避けられません」で終わりました。  もうこの時の私は、何がなんだか頭が真っ白であふれそうな涙をこらえながら、立つのもやっとの状態でした。  病名は「両大血管右室起始症」、要するに心奇形ということでした。  帰路に着こうと車に乗った途端、号泣でした・・・。  目が涙でかすんで、前が見えないままの運転でした。 ３、闘病生活 いつまでも泣いていられず、たんの通院も始まりました。  心臓病児の子育てで注意することのひとつに‘泣かせてはいけない’  というのがあります。  たんを診てくれていた先生も  「２０分泣かすと死にますから、気をつけてください・・・」と、あっさり言われました。  医者というものは、最悪の事態のことも、ほんの少しでも可能性があれば話しておくらしい。  でないと、そんなふうになるなんて聞いていませんでした・・・、と患者側から言われてしまうからである。  泣かさないようにするため、泣いたらオッパイ、泣いたらオッパイの毎日でした。  たんはとにかく飲み始めると疲れてしまって、寝てしまうのです。  で、またすぐにお腹が空いてしまう・・・という悪循環のため、ほとんどそばを離れることができませんでした。  ３５７０ｇで生まれたにもかかわらず、その後の体重の増えは横ばい・・・、やせていて目がグリグリ大きく、顔が浅黒い色の赤ちゃんでした。  投薬（利尿剤、強心剤）も始まり、２週に１回のペースで通っていましたが、秋に入ると気温の変化からか風邪をひいてしまい、何度か急患で行ったこともありました。  １１月にカテーテル検査をやり、結果はかろうじてい１回の手術で根治できるだろう・・・ということでしたが、今やるには小さいしリスクも高いので、１歳頃やりましょう・・・・と言われました。  １２月に入り、また風邪をひき気管支炎になり入院となりました。  このころは、日に日にやせていっているのが目に見えてわかりました。  心配で心配でたまりませんでした・・・。 ４、手術 入院中のある日先生が、  「このままではまた風邪をこじらせて同じことの繰り返しなので、手術してしまいましょう、体重５ｋｇでもできなくはないので・・・」と、突然言われました。  日にちは、年明けすぐということでした。  お正月はかろうじて家族で過ごし、またもやカズを実家に預けて、いよいよその日が来ました。  朝９時からの手術でしたが、当初４〜５時間くらいと言われていたのに２時をまわっても終わりませんでした。  待っている間、パパと色々な話をしたり、心臓病に関する本を読んだり  していました・・・。  人工心肺を使う大きな手術を、小さな体でがんばって受けているというのに、何もしてあげられない自分がもどかしかったです。  手術が終わり、ＩＣＵで面会できたのは４時をまわっていた頃でした。  無事に終わったようでした。  体中に管をたくさんつけ、人工呼吸器もついているのに、たんは足をあげて泣いていました。  「あーよかった、よくがんばったね〜」  頭をなでてあげました。  ＩＣＵ３日目に大雪が降りました。  それでも会いに行きたいので、国道を走っている唯一のバスに乗り込み、さらに雪道を歩いて面会に行きました。  面会に行くたびに、管が少しずつ外されて良くなっていきました。  １月終わりには退院できて、カズもパパが迎えにいきました。  家族全員がそろい、６畳の部屋に寝られたときのうれしさ・・・、一緒にいるだけでこんなにも幸せなんだーと、心の底から感じました・・・。 たんメモその２へ